「基本に立ち返る」という言葉は、二輪車販売に限らず世間一般、業務に関わる人なら誰でも理解しているし、やっていることだと思います。でも、そこでの「基本」は、マニュアル通りにやることだと思っている方が意外に多いように感じられます。本当はマニュアルをベースに、顧客それぞれのニーズに合ったサービスの提供のはずです。

個人的な話になりますが、先日業務用に使っている四輪商業車を正規ディーラーに持ち込みました。その際、「コピーではなく、車検証そのものがないと車両は預かれません」と言われてしまいました。

車検証は常時車両内にセットしておくべきことは知っていますが、その話し方が杓子定規で不快に感じてしまいました。以前に何度もこのディーラーには同じ車両を修理に出していて、車検日や修理内容の記録があるのですから、たとえば「そうですか、であれば一旦お預かりしますが、後日持ってきてください」と言うぐらいの柔軟性があり融通が効くと良いのに、結局車検証を家まで取りに戻りました。

客を信頼することは、客側からすれば「信頼されている」と解釈できるものです。ならばこれからもこの販売店を使おうという気になります。

さらに、運転席側ガラス窓に盗難抑止を狙った特殊加工をしているのですが「これは違法改造です。ですから修理対応はできません」とその販売店のスタッフから言われたこともありました。

実は法に触れない位置とサイズをちゃんと理解した加工処理なので問題はありませんし、実際に何度も車検を通過しています。そのスタッフは単に勉強不足・知識不足だっただけなのです。

お客様のためになるきめ細かい配慮

バイクの話に戻ります。先日あるメーカーの広報車をお借りしたら、タイヤは新品のままで、クラッチ&ブレーキレバーは遊びがなく、チェンジペダルも私にはとてもライディングしにくい位置でした。サービスマニュアル通りの設定としても、それは問題です。

二輪車販売店は、単にバイク製品を売る店ではありません。お客様の体格・体力・スキルなど可能な限りの情報を盛り込んだデータをベースに、ベストなフィッティングを施してバイクをお客様にお渡しするのが仕事です。それではじめて「製品」が「商品」になるのです。そのためにはお客様とのコミュニケーションつまりヒアリングが欠かせません。

新品タイヤは一皮剥けるまでは非常に滑りますし、遊びがゼロのクラッチレバーは操作が非常に重く、場合によってはクラッチの滑りにつながります。

たとえわずかなレベルでも、微調整された状態での納車とわかりやすい説明こそ重要ではないでしょうか。マニュアル通りの説明も大事ですが、そのお客様個人の繊細な設定にちゃんと真摯に向き合っているショップであり、実践していることを何気にアピールするべきです。

売上数値も大事ですが、その前に向かうべきは「お客様のためになる微に入り細にわたるきめ細かい配慮」。私が思う基本は以上です。

プロフィール

柏 秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。

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