━━㈲テクニクスの設立は2001年ということですね。25年間ずっとサスペンションサービスを専門としてきたのですか。
「そうです。もともとバイクが好きだった私は、8年ほど販売店で働いていたんです。バイク屋さんになりたくて」
━━しかし二輪車販売店としては独立されなかった。
「排ガス規制などで商売が細ってしまい、勤めていた販売店を辞めて独立することに。ただ、車両を仕入れて売るには資金が足りませんでした。そこでサスペンションのメンテナンスなら経験を積んでいたので、その道を突き詰めようと。春日部市内に掘っ立て小屋を借りて開業したんです」
━━まさに腕一本でのスタート。
「そう。見よう見まねで事業を始めたものの、コネもなければ部品の調達ルートもない。大変でしたね」
━━活路を見出したのは。
「アメリカでした。向こうではモトクロスなどが盛んだったので、そこのサスペンションメーカー(MX-TECH社)とコンタクトを取って。『あなた方の商品を仕入れて事業展開したい』と。そうしたら『勉強しに来なよ』と言ってくれて、1週間ほど行ってきたんです」
━━言語の問題はなかったのですね。
「いえ、英語は全然できませんでした。メールにしたって、中学・高校時代の記憶を手繰り寄せながら書いていたので。今になって米国の仲間に『当時は皆が何を言ってるか、まるで分からなかったんだよ』と打ち明けると、『マジかよ!』『ポーカーフェイス上手いな』って驚かれますよ」
━━凄まじい度胸というか、バイタリティですね。そうして仕入れ先を開拓していったと。
「そうですね。部品の供給ルートと、技術的なノウハウも得て。色々アップデートするため、その後も毎年2週間くらい渡米しました。行くたびに新しいサスペンションチューニングのノウハウを教わってきたんです。5年~6年は続けたかな。そうやって仕事の幅を広げてきました」
━━ナイトロン社(英国Nitron Racing Systems)の輸入を始めたのは。
「創業から5年経つ頃でしたね。ちょうどナイトロンとコンタクトを取り始めた頃、社長が来日する機会があったんです。英国製品を在日大使館でプロモーションするために。そのタイミングで直接会ったら意気投合しましてね。お互い30代だったこともあり『一緒にやろう!』と」
━━そこから20年にわたる蜜月関係が始まったのですね。
「まあ、しかし当初は売れませんでした。英国品質と日本品質の差が激しくて……。そこでナイトロンの社長が『部品を在庫してはどうか』と提案してくれたんです。全面的にバックアップするから、日本でアッセンブリーを組めばいいと。そして自らのサプライヤーを紹介してくれました。スプリングを作る工場、ピストンロッドを作る工場、マシニングの工場など……。おかげで『ナイトロン製品だけでは難しいな』という案件でも、テクニクスとして解決できるようになって。紹介してもらったサプライヤーの協力を得て、壁を越えていくに従い、部品の製造プロセスの知識やノウハウも蓄積されて現在に至ります。ナイトロンがそれを快く承諾してくれたのも大きかった」
━━まさに信頼関係ですね。海外のサプライヤーは何カ国に存在しているのでしょう。
「9カ国ですね。EICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)で皆と会うと盛り上がりますよ。『おお久しぶり!』って。そういう人とのつながりが大きいですね。テクニクスにとって」

人とのつながりで成長してきたと語る井上社長
━━そう、テクニクスの成長について前編で伺ったことも印象的でした。以前は井上社長ありきで進めていた体制から、変わってきたとか。
「そうなんです。例えば問い合わせ対応。最初の対応は一番大事なので、開業以来20年くらいは全て私が行っていました。海外出張中であろうと朝晩メールを打って」
「それが、ここ1年くらいはスタッフ間で分担するようになりました。基本的な対応は営業スタッフが対応し、難しい問い合わせには古株のサービススタッフが対応するといった具合に。皆、責任を持って担ってくれています」
━━要所要所にキーマンが育っているのですね。
「そうです。先日も販売店の方々が来社されてサスペンションの勉強会を開催しましたが、運営も講義も全て社員が分担してやりきっていました」
━━そうなってくると徐々に井上社長の手が空くのですね。ワンストップの整備請負やレンタルバイクなど、比較的新しい事業分野に注力されるのでしょうか。
「それもありますけれど、やはり最近バイクに乗りたくて」
━━うはは、なるほど。基本的な欲求ですね。
「もともとバイクが好きでこの仕事を始めたのに、忙しくなるにつれて乗れなくなってきたもので」
━━やはりご自身がバイクの楽しみを実感されるというのは、とても大事なことなのでしょうね。
「そうですね。やはり走って実感しないと。お客様と同じ目線で。2015年から『テクニクス イワイモトクロスコース』を運営しているのも、きっかけは要請を受けた形ですが、やはりライダーの楽しむ場を存続させたいなと」
━━ライダーにとって存分に遊ぶことができる場は貴重です。また、おそらく自社製品のテストにも使用されているのですよね。
「ええ、もちろん。耐久テストのため若いスタッフがひたすら走るなどしていますよ。実際に走り込んで、誰が乗っても気持ち良く走れるというものづくりがしたいと常日頃思っているので。『これはテクニクスにしかできない』と評価してもらえるサスペンションに仕上げる、ということをコアにしたいなと」
━━オフロードでもオンロードでも、クローズドコースでも公道でも、全てのステージにおいてノウハウが豊富であることがテクニクスの強みですね。
「ロードレース選手権やモトクロス選手権の第一線で走っていたスタッフや、またサスペンションメーカー出身者であったり、機械加工が得意な者であったり。いろんな分野のプロフェッショナルが集まっている。そうしたメンバーがアイデアを出し合って、いい商品を開発できている面はあります。お客様のお悩みを解決するにも、各分野に精通したスタッフが対応してくれているので心強いです」

分解から洗浄、組付けまで丁寧かつ迅速に進めるスタッフ
━━二輪車を含め自動車業界は整備士不足が叫ばれている中、それだけの人材が集まる理由は。
「今いるスタッフはテクニクスでやりたいんだと志願した人ばかり。やりたいようにできると聞きつけてくるのでしょうか。ほぼ任せっきりとも言いますが」
━━ははは、皆さんのアイデアを尊重されていることは伝わります。
「人が集まってくれるのは、やはり仕事が楽しいからでしょうね。気合いと根性があれば、ノウハウを身につけて色々できるようになりますし。お客様から頂くフィードバックも良くも悪くも直に聞けて励みや、やり甲斐に繋がりますからね」