
取材に応じるシュトラスマイヤー氏
KTMジャパンとしてはちょうどEICMA2024で様々な新型モデルが発表され「さて今後が楽しみ」という段階であったろう24年11月。あの時、いったい何が起こっていたのだろうか。シュトラスマイヤー氏はこう振り返る。
「24年の後半、KTM AGは深刻な財務危機に直面した。これは誰もが予測していたよりも迅速かつ深刻な事態だった。半期決算が発表された時、わずか1年半の間に純負債が2億5000万ユーロから14億ユーロ以上に膨れ上がったことが明らかになっていたのだから」
「その根本的な原因としては、世界市場における過剰在庫、非中核投資による流動性の逼迫、そして事業運営の複雑化などが挙げられる」
「KTM AGは2008年、世界的な金融・経済危機に際して、敢えて追加投資を行い、シェアを獲得。新たな事業領域にも進出することができた。パンデミック後の状況でも積極的な投資を行い、成果を上げようとしたのだが、今回、この試みは上手くいかなかった」
そうしてKTM AGは自己管理による司法再建手続きを正式に申請。この法的枠組みにより、90日間にわたり、債権者と再建計画について交渉しながら資産管理を継続することとなった。これに際して24年12月、KTMジャパンは国内市場に向け、従来通りのサービス提供を続けると宣言している。
「重要なのは、KTMジャパンを含むすべての販売子会社がこの間、影響を受けずに通常通り業務を継続できたことだ。KTMジャパンとして、私たちは直ちにグローバルな事業再編の取り組みを支援しながら、国内事業の安定化を図るという任務を負った。日本におけるお客様、ディーラー、そしてブランドの評判を守ることは、この時期は困難な時期ではあったが」
「そのため、時には型破りな方策も探ることもあった。それでも正直に言うと、約束を100%果たすことはできなかった。出荷が滞った局面もあった。心よりお詫び申し上げる」
販売店の約95%が活動継続 自信持って改善進める
危機が明らかになった当初、日本のディーラーからの反応は、当然ながら今後を非常に心配するものだった。
「彼らの多くは継続性、特にスペアパーツの供給、保証サポート、将来の製品の入手可能性について疑問を抱いていた。たくさん質問をいただいた」
「私たちは、すべてのディーラーと毎月オンライン会議を設定し、新しい情報が得られ次第、ディーラーレターを通じて最新の開発状況を共有するなど、可能な限り透明性を高めるよう努めた。たとえすべての答えが用意できていない時でも、コミュニケーションの透明性と誠実さを維持しようと。私たちはそのようにして信頼を得ようとした」
KTM AGの親会社であるピエラモビリティAGが上場企業であるが故に、情報公開の日時を調整しなければならないタイミングもあったようだ。「すべての答え」を示し難い場面があったのは、そういった理由からだ。
「ディーラーの皆様としては、情報の提供が遅いと感じることも時々あったかもしれない」
そう振り返る。危機を乗り越えるまでの間、国内すべてのディーラーが残った訳ではないとも打ち明ける。
「しかし私たちの側に立ってくれたディーラーたちの忍耐と回復力に、改めて感謝したい。彼らは、これがKTMジャパンによって引き起こされたものではなく、世界的な問題であることを理解し、私たちを支えてくれた」
25年9月現在、KTM、ハスクバーナ、GASGASの国内販売網は全66店舗。昨年末の約95%が今も正規ディーラーとして活動している。
なおMVアグスタについては、KTM AGが所有していた株式は以前のオーナーに返還されている。また、スポーツカーブランドのKTMクロスボウなど幾つかの事業も売却された。
「グローバルで取り組んだのは、まず業務を効率化し、中核の二輪車事業に回帰すること。そして在庫を削減し、サプライチェーンと生産の安定化を進めること。そして、モータースポーツとイノベーションに対するコミットメントの再確認だ」
「KTMジャパンとして、私のアプローチは透明性、誠実さ、コミュニケーションを重視すること。これは先述の通り、ディーラーとの情報共有にまつわることだ」
「そして目標、ROI(投資利益率)にフォーカスした。もう一つ重要なアプローチが、コミュニティだ。お客様が集う場に行き、彼らと交流し、彼らの声に耳を傾けた。サードパーティーが開催しているイベントにも積極的に出展することで、お客様がバイクを楽しんでいただける環境を一緒に作っていった。こうした草の根的なつながりが、地に足をつけさせてくれたといえる。自分たちが何故この仕事をしているかを思い出させてくれた」
販売については、一時期は30%程度まで落ち込んだ。2月に再建計画が承認されたことを受け、春にはV字回復もあるかと期待したが、回復はまだ緩やかだという。
「今後の回復ペースも緩やかなものであろう」
しかし、回復基調は鮮明であり、また安心して仕事に取り組めることが、何より心強い。
「支援してくれたバジャジに対しては、KTMジャパンを含む全社を挙げて『ありがとう!』とビデオメッセージを送った。個人的にも忘れられない思い出となっている。何故ならその時、私たちは『よし、(危機は)終わった。私たちはもう安全だし、先に進むことができる』と分かったのだから」
回復ペースは緩やかながら 何より安心して仕事に取り組める
KTM AGの親会社であるピエラモビリティAGのCEOは、ステファン・ピエラ氏から、ゴットフリート・ノイマスター氏に交代している。
「今後も新たなCFO(最高財務責任者)やCOO(最高執行責任者)が就任するだろう」
KTMジャパンとしても、これで動きやすくなった。25年後半、そして26年は回復路線を強化していきたい。オレンジブラッドミーティング開催、新型390シリーズ(390SMC R、390アドベンチャーR、390エンデューロR)導入といった今日の活発な動きは本紙既報の通りだ。
「加えてライダーサポートプログラム、免許サポートキャンペーンなどの魅力的な取り組みを行う。非常にコミュニティに重点を置いて活動をしていく」
「ここ数カ月間でも20社ほどのディーラーを訪問したが、『大丈夫、まだやり直せる』と皆が確信している。自信を持って今後も改善を進めていくだけだ」
またエキサイティングな事業環境になってきた、とシュトラスマイヤー氏は笑みをこぼす。