クシタニは来年創業80周年を迎える。区切りの年を前に「ブランディングとリブランディング」を軸に、いくつかのプロジェクトが進行中だという。アジアロードレース選手権(ARRC)に向かう直前の櫛谷信夫氏に話を聞いた。

海外展開を大幅拡大、それに伴い品質向上を

「創業80周年に向けて、既存ブランドの強化をしつつ、リブランディングの取り組みをスタートさせています。大変ですが楽しい作業です。同時に、日本以外のいろいろな国で新たにクシタニの店舗が作られ、新しい販路が確保できそうです」

来年春から夏にかけて、これまでにない規模の海外展開がスタートする。具体的には、現在展開しているエリア(韓国、中国、タイ、台湾)に加え、新たにマレーシアに直営の現地法人を設立。さらにアジアエリア以外にも中東、中央アメリカやオセアニアでも出店準備が進んでいるという。

「どの店舗もクシタニの専売店とし、クシタニの看板を掲げて運営していきます。既存のタイ、中国などの海外店舗をベースに、レイアウトや内装もグローバル標準化させていきます。現在、各国のパートナーとレイアウト等の擦り合わせ中です」

「海外の方は、ランディ・マモラやワイン・ガードナーらのレジェンドライダーが、クシタニ製品を着用していたことは知っています。一方で『クシタニってまだあるの?』といった方がいるのも事実。そんな状況の中で、MotoGPでの小椋藍選手やWSBでのソムキアット・チャントラ選手の活躍は、インパクトがあったようです。アジア圏を中心として、クシタニブランドの認知度が大幅に向上した実感があります。また、彼らからするとクシタニは、レース関連のウエア・ギアだけでなく、一般向けのツーリング系・アドベンチャー系・ヘリテージ系のウエアまでオリジナルで作っているんだという発見に繋がり、今のクシタニはレンジが広い会社だと思ってもらえたようです」

クシタニを知るきっかけはレースシーンだったものの、製品ラインアップの広さが評価され、たとえば中東やオセアニアエリアでは、アドべンチャー系ウエアが注目され、ここ数年で各国からの引き合いが急増している。海外展開の広がりは、製品作りそのものにもメリットがあると説く。

「海外展開が広がる=取扱店が増える=生産量が増えるということ。これには大きな意味があって、生産量が増える=単価が下がる=今まで原価の兼ね合いもあって使えなかった素材が使えたりと、製品作りの選択肢が増えるのです。そうすると同じ価格で品質が上げられるんですよね。だから海外展開が広がる一番のメリットは、商品そのものの品質が良くなることと言えます」

画像: サーキット内でサービス活動をする櫛谷氏

サーキット内でサービス活動をする櫛谷氏

国内外の次世代へアプローチを強化

さらに店舗運営スタッフの若返りを背景に、次世代に向けたブランド訴求の再構築に取り組むという。

「今までのブランディングやマーケティングで、自分ではこれが正解だと思っていた判断にズレが出始めたと感じています。次の世代へのアプローチを考えるのに、今の延長線上ではダメでしょう。例えば、私たちがこれまで知っているリーチ力のある人と、若い世代に対してリーチ力のある人は別だと思います。そこを私たちで調べることはやはり難しいなと。この人は影響力があるとか、この人の情報をみんな収集しているなんて、とてもじゃないですがわかりません。ですが、そこらへんの“見える化”の作業は今後必ず必要になってきます。

その点は、若いスタッフの力を借りることで、最近やっとダッシュボード化することができました。若い感度の高い人たちを捕まえて、そのネットワークを使いながら日本はもちろん、世界中で若者向けのプロモーションを進めていこうと思っています」

画像: ARRC会場で兄の櫛谷淳一氏(クシタニ社長・右)と

ARRC会場で兄の櫛谷淳一氏(クシタニ社長・右)と

創業80周年記念のブランドブック

冒頭で、「ブランディングとリブランディング」を軸にと書いたが、そこには提供価値の根本の見直しとアップデートが含まれる。来年、創業80周年を迎えるにあたってビジョン、ミッション、バリュー、パーパスに改めて向き合う日々だという。

「今、『クシタニブランドブック80(仮タイトル)』を製作中です。先日は浜松の職人に改めて話を聞き、56designの中野真矢さんも取材しました。私達の仕事の現場やパートナーを取材して、リアルなクシタニを知ってもらうとともに、80年の歴史や会長の話、ライダーの声などの情報を豊富に掲載します。製品カタログのページは一切ありません。

取材や編集会議を通して、改めて気づくことや振り返る機会を得ていると強く感じています。実際、ライダーの安全に直結するクシタニの存在意義や理念は、創業時より大きく変わることはないでしょう。その一方で、それらを具現化するための行動や方法は多種多様にあり、試行錯誤する日々です。商品品質の勝負だけでなく、ユーザーの方にどうしたらクシタニをよりよく知っていただけるかと、SNSで多くのコンテンツづくりに取り組んできました。クシタニというブランドとの接点を増やす一方、マインドシェアが高い企業になれるようにと尽力しています。

その施策の一つとして進めている『クシタニブランドブック80』は、来春のモーターサイクルショーまでにはみなさんにお見せできるようにと思っています」

安全を追求してレーシングウエアを作り続けた80年間を大切にしつつ、次世代へクシタニの魅力を伝えようとする櫛谷氏。自らも取材、撮影を行い、創業80周年の思いが詰まった一冊を製作中だ。

画像: 海外店舗ではレイアウトや内装をグローバル標準化させる(写真は台湾の台中店)

海外店舗ではレイアウトや内装をグローバル標準化させる(写真は台湾の台中店)

画像: 櫛谷信夫社長(東京・世田谷店で)

櫛谷信夫社長(東京・世田谷店で)

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