モットーは「オートバイで彩りのある生活を」 

「勝算はあると思っていました」

そう語るのは、勤め先の定年を待たずに脱サラして二輪車販売店を起業した伊藤秀澄さん。経歴も異色だ。これまで自動車メーカーや航空宇宙部品メーカー、高級家電メーカーに在籍。自動車メーカー在籍時に四輪の販売経験はあったが、一度も二輪車販売や整備はもちろん、業界にすら携わったことがなかったという。

ただ、プライベートでは16歳で手に入れたTSハスラー50に始まり、VMAX(1200)やR1150GSなどを乗り継いできた。現在はS1000XRとCB125Tを所有。二輪車の構造や仕組みはある程度の知識はあったが、何よりサラリーマンを退職後の転身で、事業を行うのも初めて。さらに、事業を始めたのは東京都西部の最深部といってもいいJR五日市線・武蔵五日市駅近くの自宅兼店舗。不安がなかったのとか聞くと、返ってきた言葉が冒頭のコメントである。

画像: 取材に応じるDEMOTA代表の伊藤さん

取材に応じるDEMOTA代表の伊藤さん

「お客さんはSNSというエア店舗を認識して来店する」

勝算の理由を聞くと、「今の時代、情報を伝えるのはホームページをメインとしたSNSが中心です。都内の目抜き通りで二輪車販売を行うとコストが掛かり、ビジネスは難しい。でも、今はSNSなどの空中戦で広く事業をPRできる。以前の職場がSNSを使った自社商品の訴求スタイルが先鋭的で洗練されており、そこでSNSの重要性を認識した」と、主張する。

自社のホームページもベースとなる部分は外注したが、その他のテキスト作成や写真撮影は自分で担当するなど運用コストを抑制、なによりSNSは立地に存在しない集客を可能にしているという。

「自宅を利用することで固定費もゼロ。個人事業主なので、人件費も最小化できる」とも説明する。また、ホームページでも心がけたのは、店舗紹介やブログをあえて長文で掲載し、販売車両の整備内容や預かった車両の部品交換・整備内容も詳しく紹介していることだという。

「お店の紹介や納車前の整備を細かく行っていることを掲載している。いずれも長文だけど、おかげで『読解力があり常識のある大人』が来店するようになった」と破顔する。その効果もあってか、宇都宮やつくばなど遠方から来店する人もいると胸を張る。

一方、これまで数々の二輪車販売店にお世話になってきたが、販売店側に少なからず問題点があるのも分かっていたという。「昔のバイク屋さんのイメージは【車両の不具合や修理をお願いしにくい雰囲気】や【説明が足りず、ともすると不誠実な対応に見える】ことも経験上、少なからずありました」と述べる。

そうした対応を見てきただけにしっかりと、整備内容を具体的に記録・公開することで購入する側としても安心感が生まれるという。「手間をかけた情報発信が、集客に直結する」と続ける。また、昨今はショート動画で訴求するスタイルも多くなっているが、映像のみや短文で紹介するのでは、思い違いや勘違いをした人が来客する可能性が大いにあると指摘する。

画像: 認証工場には納車待ちのVストローム250ほか数台が置かれていた

認証工場には納車待ちのVストローム250ほか数台が置かれていた

ところで、二輪車販売店を経営するには二輪車のしっかりとした整備技術は必要。伊藤さんはそこでも用意周到だった。サラリーマン時代に夜間の専門学校へ、2年間通いつめて二級自動車整備士の資格を取得。店舗も認証を取得し、整備に必要な機材を揃えた。

その一方で、週末に近隣の二輪車販売店で1年間手伝いをさせてもらい業務の流れを把握するなど、独立への布石を打ってきたのだ。最近では、ヘッドライトテスターも中古で仕入れ整備性を向上させている。

「AIを使って整備の精度を高めている」

ユニークな取り組みも行っている。整備で悩んだ時に“AI”を使っているという。AIも無料版ではなくサブスクリプション版を契約しており、難問に対してベテランの先輩整備士の代わりに方向性を示してくれるので、大いに活用しているという。

ただ、専門知識がなければ意味がないとしている。「きちんとした専門知識を持っていないと、出力された回答を漫然と受け入れるだけになってしまう」と説明する。AIが出力した回答に疑問や難点が想定できなければ、最終的に誤った結論に行きついてしまうとのこと。

また、AIには学習能力があり、さらに質問を繰り返し煮詰めていくことで回答の精度が高くなるという。AIでブログを作成しないかとの問いには「AIの生成文章には全くセンスを感じない」とのことで、掲載する文章はオリジナルで執筆しているという。

販売店を立ち上げて1年半余り、これまでに40台以上を販売。月平均3台ほどだが、目標どおりか聞くと「計画とほぼ同じくらい。在庫はため込まず5台くらいをキープして回転させている」と述べる。販売する車両はJBA横浜で仕入れている。自宅から会場へのアクセスが良いことで直接、自分の目で出品車両を確かめられるからだという。「現物を確認してビビッとくる」感覚で仕入れているそう。

部品の仕入れは主にカスタムジャパンとWebike(ウェビック)から取り寄せている。JBAもカスタムジャパンも事業を始めるにあたり、取引できるか心配だったが、開業前から交渉し熱意を持って説明したことで、登録できたと振り返る。

販売車両の選定基準もはっきりしている。最新のインジェクション車はブラックボックス化(メーカー独自の診断機を使った整備等)されているのが多く、サービスマニュアルも入手困難のため基本的に扱わず、本人には旧車屋としての自覚はないが必然的にキャブレターを搭載した絶版車を主力としている。

また、人気車種は価格競争になるため、あえてニッチな車種を狙っている。そうした車種でも必ず琴線に触れるユーザーがいるという。スクーターの類については狙っている客層とは合わないため積極的に取り扱わないとしている。

車両整備も重整備のほか、他店で断られた車両や難整備でもオーナーの真剣さを感じた案件を受け付けている。それは原因不明のトラブルを論理的に追求するのが面白いからだという。

「原因を突き止めて、修理してお客さんに喜んでもらうのが一番嬉しいし、この仕事をやって良かったと思える。お客さんも『直るなら時間もお金もかけていい』という人が多い」としている。そうした案件は利幅も大きいこともあり、引き受けていると笑う。自身も長くオートバイのある生活を過ごしてきただけに、オートバイの楽しさは十分すぎるほど分かるという。

「オートバイで彩りのある生活を送って欲しい。そのためにお手伝いできることがあれば」と述べる伊藤さん。サラリーマン時代よりも大いにやりがいを感じると表情を緩める。

画像: 自身で仕入れてほぼ全ての部品を解体して組み直したというCB125T。タンクはGB250クラブマン用だという

自身で仕入れてほぼ全ての部品を解体して組み直したというCB125T。タンクはGB250クラブマン用だという

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