昨年12月に開催された設立記念式典では、キムコ本社の柯俊斌総経理が来日し、ブランドの紹介とともに、日本市場への意気込みを語った。また、日本法人となるキムコジャパンの平山雅浩COO(最高執行責任者)からは「顧客満足度の向上を最優先課題とする」とした方針と、日本で本格的な販売を開始する5モデル7車種が披露された。また、3年保障・立ちごけ補償・業界初となる買い取り保障といった独自のオーナーサポートプログラムを提供することや、16年中に全国100店舗のネットワークを展開するといった数値目標も発表された。
台湾での圧倒的シェア
キムコの台湾本国での支持は圧倒的で、15年連続で新車販売台数1位を誇るだけでなく、年間販売台数は29万台、シェアは42・5%にも達する。また、販売店政策においても専売店重視の姿勢をとり、その数も3800店。併売店を入れると5000店舗になるという。これは台湾の都市部において、1街に1店販売店が存在するといった感覚だ。
「キムコ城下町」とも呼ばれる高雄・三民區。街の中心部にある本社工場内は、柯総経理が皆と同じ作業着で工場内を普通に歩いている姿を見かけるなど、開放的な雰囲気が漂う。
キムコは現在、カワサキのスクーター、そしてアークティックキャット社(アメリカ)のATVをODM生産、BMWのエンジンをOEM生産しているが、クランクケースなどの高精度が要求される部品は、すべてX線で検査される「キムコはエンジン屋」(柯総経理)と言うように、エンジンをゼロから作る技術と設備に注力した結果、パートナーとともに良質な製品を作るという方向性も持ち合わせることとなった。相手が求めるエンジンを、〝求められる品質レベルにまで高めて提供するエンジンサプライヤー〟という側面がある。
そもそもキムコは本田技研工業から技術供与を受け、82年から03年までのジョイントベンチャーを経て現在のグローバルブランドへと成長した。「ホンダは良い先生。当時のホンダマンによるホンダイズムは浸透している。競争するのでなく、量も求めず、キムコはキムコの道を行く。エンジンサプライヤーとしての信頼を積み上げたい」との柯総経理の考えにブレはない。
本社工場は、外装類の塗装に車体の組み立て、試作品を製作する第一工場と、エンジンをメインとするスクーター各部を生産する第二工場に分かれている。その本社工場において、500人体制で、1台平均55分で組み立てが可能で、それぞれ最大400台/1日、1500台/1日を生産しているという。
また、自社生産率も高く、プラスティック製品は約75%、塗装品においては90%がこの工場で内製しているという。そのため、製品改善対応が早期に可能であり、トータルで高品質を保つ要因となっている。
顧客指向の販売網とパーツ供給体制
台湾における二輪車販売店網はその数からみて、キムコの独壇場と言える。専売店が3800店ある中で、KEN(キムコ・エクセレント・ネットワーク)とネーミングされた特にグレードの高い店も250店舗展開する。KENには、専門の各種機器が導入され、ユーザーのためのオリジナル各種油脂類にタイヤまでも用意され、基本的に中古車販売は取り扱わない方針。1年の製品保証やメインパーツの2年間保障といった本社が提供するオーナーサポートプログラム以外に、各ショップごとに金利0%といった独自のキャンペーンを張ることも自由だという。しかし新車販売がメインと言ってもその利益幅は少なく、利益の中心は国内保有1200万台を対象とした全メーカーの修理に負う面もある。ちなみに台湾では年に1回の排出ガスチェックが義務付けられているため、一般ライダーが他店と比べて接客対応や修理レベルの高いKENへ来店する機会は多いという。
KENを含めた専売店に用品を卸すパーツセンターは本国だけで80カ所存在する。取り扱いパーツは2万8000種類、全体では7万1000アイテム(日本円換算で約1億1200万円)を常時ストックしているという。
日本においても、東京・大田区に新たにパーツセンターを設置し、アイテム数で1万を超える純正部品のストックを準備中だ。その他、日本の正規販売店にも故障診断器等の機器を設置、現在は全国24店舗のネットワークを、16年には100店舗へ拡大し、販売強化を図っていくとしている。
ヨーロッパのスクーター市場での高い人気を背景に、「高品質な製品と高いサービス、ニッチな商品作りがキムコらしさ」(柯総経理)と自信を示すキムコの次のステージはグローバル市場だ。世界市場でのスクーターカテゴリーにおいてトップシェアを目指すためには、日本市場での成功が不可欠と言えよう。
視察会では別途柯総経理との意見交換会も開催された。概要は以下の通り。
-社内へ常日頃発信していることは。
「ビジョンは明確だ。〝WinMyHeart〟。この姿勢は社内だけでなくお客様にも伝わっていると思う。お客様がベストと思える商品を作り、買ったことをベストと思ってもらいたいのだ」
-ライバルはいるか。
「キムコはキムコであり、これがキムコだとお客様に伝わる製品をつくり続けたい。つまりは自分自身がライバルだと言える」
-スクーター市場の今後は。
「台湾はもちろん、ヨーロッパ等で高速道路網がいくら整備されようとも、コミューターとしてスクーターは必要不可欠な製品だ。日常使いに便利なスクーターは、さらに伸長するジャンルだと考える。今後は中~大型スクーターのシェアを伸ばしたい」
-女性ライダーへの展開が上手に見えるが。
「都会に暮らす女性にとって軽いスクーターは扱いやすく、マッチングの良い乗り物。今後さらに女性向けの商品にも着目していく」
-グローバル市場でシェアを増やしたポイントは。
「商品そのものが高品質になったことが一番だ。ATVをきっかけにカワサキ、そしてBMWに製品供給したことで、信頼度が上がったし、それが我々の自信に繋がったことも大きなポイントだ」
-これほどの技術力があるのに、ギア付きの二輪車はつくらないのか。
「コストとの兼ね合いもあるが、つくる気がない。キムコの核は、自社ですべてを創るエンジン屋という点にある。エンジン開発能力と生産能力をさらに高めていきたい」
紙面掲載日:2016年1月29日