SHOEIでは10月1日、それまで取締役海外営業部長を務めていた石田健一郎氏が社長に就任した。本紙は10月20日、石田社長に現在の市場や今後の課題、取り組みなどを聞いた。

──これまでの経歴は。

「現在55歳になる。1983年に京都大学工学部を卒業し三菱商事に入社した。90年から97年ドイツに駐在、09年からはサウジアラビアの石油化学品工場で仕事をしてきた。そして現在の山田勝会長の誘いを受けて2013年5月にSHOEIに入社した。

実は83年に三菱商事に入社した当時の上司が今の山田会長で、33年の付き合いになる。ドイツでは安河内曠文・前社長が上司だった。山田会長がSHOEI社長に就いた後もいろいろな件で相談相手になって頂いていた」

──山田会長からは、どのような教えを受けたか。

「商社マンには大風呂敷を広げる人や宇宙のようなことを語る人が少なくないが、山田会長は昔から目の前の仕事に堅実に無駄なく取り組む人で、同じことを頻繁に教えられたと思う」

──社長就任後、社内向け挨拶では、どのようなことを話したか。

「1つ目は、当社は無借金企業であり、引き続き手厚い内部留保をベースに堅実経営を務めていくこと。2つ目は、付加価値である高級製品づくりで、お客様への満足向上を進める一方で、生産や業務の効率化を図り、国内2工場によるメイド・イン・ジャパンを維持し拡大していくこと。

3つ目が、社内コミュニケーションで社内での議論をボトムアップしていくこと。当社は92年に倒産し三菱商事から山田会長が管財人、その後社長に就き、これまでは山田会長のリーダーシップの下で会社は成長してきた。現在は経営が軌道に乗り、私の段階では社員全員で意見を出して力を合わせて物事を決めて進めて行く段階になった。最後の4つ目は、明るく楽しい職場づくりを目指すことを話した。従業員には明日も頑張ろうと思ってもらえる会社にしていきたい」

──経営者として重要であると考えることは。

「いろいろあるが、上場会社として利益を上げ株主様への還元がある。当社の配当性向は5割を確約しており、上場企業の中でもかなり配当性向が高い。企業は利益の内部留保を重視する傾向があるが、当社は引き続き株主への配当5割を維持する。また、企業を構成するのは従業員や取り引き先、お客様であり、こうしたステークホルダー全員が満足する会社運営が当然重要だ。従業員には一生、この会社で働きたいと思ってもらえるようにしたいし、取り引き先、お客様にとっても魅力ある会社と思ってもらうことが大事だ。これらのバランスを保つことが重要であり、チャレンジだと考えている。

一方で、会社の安定性も重要であり、自己資本利益率を重視し、身の丈に合わないギャンブル的な投資は行わない」

──今年7月に発表した9月期の個別業績予想は、北米以外の市場では前年並みにある。為替の影響か。

「北米以外の全市場の代理店(ディストリビューター)には円建てで売っている。例えば欧州では、代理店は最初円高によるコスト上昇を再販価格に転嫁することを我慢するが、在庫が入れ替わり高値仕入れの商品になると価格維持に我慢の限界がきて、値上げに踏みきろうとする。そうすると競争力が低下する可能性があるが、そうなるまでには1年以上必要で、すぐには円高の影響は出ない。為替の影響を受けても流通段階でのクッションに余裕がある状態だ。

北米だけはドル建てのため利益で為替の影響はあるが、昨年度に限って言えば、幸い北米の販売が減少したため円高の影響は軽微ですんだ。簡単に言うと、北米以外の収益の高い市場で販売が増え、為替の影響を直接受ける北米で販売が減少したため、結果的に良い決算になった。

今後円高が長引くと、欧州などでも末端価格が上がらざるを得ず、これによる販売数減の懸念はあるが、当社の商品は高いブランドイメージに守られていること、東南アジアなどで販売数が伸びていることなどから、円高が継続した場合でも、あるレベルの収益力維持は可能と考えている」

──各市場での販売個数は。

「ヨーロッパが21万7000個、北米は8万8000個、日本は増えて12万5000個、日本を除くアジアが2万9000個に増加。オセアニアや南米のその他が2万3000個で合計で約48万個になる。

アジアではこの1年で2・3倍に販売数量が伸びた。特に中国で代理店を2社体制に拡大し、2社で競争心が高まったこともあり、市場参入から1年で12倍となった。これまで中国へは当社担当者も頻繁に出張し、イベントなどに参加するなど地道にPR活動を展開したことも、この急成長につながった。中国に限らず、モトGPライダーのマルク・マルケス選手らもある意味で優秀な営業マンといえる。当社ブランドの浸透に貢献している。南米のアルゼンチンやチリが伸びてきていることなどもそのいい例だろう。

日本市場も前年度比約1万個プラスだ。昨年はインバウンド効果と分析したが、今年は海外旅行者の購買意欲も薄れていると言われているにもかかわらず、販売量が増加。現在その理由を分析中だが、お客様のニーズに合わせて商品構成や機能を明確にして開発してきたことが功を奏し、シェアを拡大したり、用途に合わせ複数の商品を購入されるお客様が増えた結果ではないかと考える。毎年購入されるお客様や夫婦で購入されるお客様もいらっしゃるので大変ありがたいと思っている」

──今後の重要視する項目は。

「岩手、茨城の2工場をフル稼働させる需要の安定確保。すなわち販売の強化だ。特にアジアと北米市場を重要と考えている。アジアでは需要喚起を続け、北米は販売力強化により安定的に年間10万個を販売する体制にしたい。

中国ではイベント参加やキャンペーンなどで広くブランドを浸透させていきたい。また、足下好調な日本市場における販売がいつまで持続するのかという点も、経営を左右する非常に重要なファクターであり、情報の収集に努めたい。現在はお蔭様で納期3カ月でも作りきれない状態であり、一部のモデルでは末端のお客様をお待たせしている状況になっている」

──生産工場の増設も必要なのでは。ただ人口減で今後の工場従業員の確保も大変になるが

「需要に生産が追いつかない現状で、若干の生産能力増は実行予定。さらなる大幅な能力増については、為替ファクター、主要市場での需要動向、アジアをはじめとする新興市場での拡大スピードにもよるので慎重に見極める必要があるが、ぜひ積極的に検討していきたい。

各工場の人材確保面では今は幸いお断りするほどの方が応募してくれている。来年に両工場合わせて11人の新卒社員が入社する。近年の好業績、賃上げの結果、就職したい企業として地方ではランキングも上がっていると聞く。ただ、今後も待遇を上げていくには当然その原資が必要であり、生産量を一気に増やすことには限界があるので、高付加価値化による商品単価のアップとJIT(必要なものを必要な時に、必要な量だけ生産)によるコストダウンなどをどう図っていくかが重要である。これは私をはじめとする新経営幹部に課せられた最も重要な課題であろう」

画像: 株式会社SHOEI 石田健一郎 社長/世界市場「48万個」販売裏づけあれば生産能力拡大も

紙面掲載日:2016年11月25日

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