音楽や絵などには作った人の名前が一緒に語られたりしますが、一般的な工業製品などは、せいぜいメーカー名まででしょう。製品を良いな、カッコイイなと感じても、それを考え、開発し、いろんな細かいところまで決断し、仕様を決めて製品にした人の顔までは想像できないと思います。こういった試乗会では、製品を前にして作った人と話ができます。
今回のCBR1000RRについては「操る楽しみの最大化」がテーマであり、それをどんなレベルのライダーでも感じるものにすることでした。
以前にもお会いしたことがある開発の方と会話する機会があったのですが、「軽くすることが、どんな人にもマシンを操る上で貢献が高いだろう」「電子デバイスはミスを防ぎ、ライダーがミスをしても、リカバリーする体制を整える時間を与える助けになればと考えている」「さまざまなモードや設定ができるので幅広いライダーに対応ができる」など、当然なのですが、乗る人のことを第一に考えていることが様々な話で伝わってくるものでした。
「家族を持った人にも、二輪車に乗る事について説得がしやすい面も電子デバイスにはあるのでは」などの話も出てきて、人が人のために作っているのが実感できました。
製品そのものに目が行きがちですが、「二輪車の楽しさを伝えたい」という思いが形になったものなんだというのを改めて感じるものでした。
「どうだ、乗りこなせるか、乗れるものなら乗ってみろ」な感じは全く無く、それは、試乗した車両からも感じられるものでした。
実は、私はCBR1000RRを所有しています。センターアップマフラー採用の型式でいうところのSC57。2世代か3世代前となる10年以上前のモデル。そこで、開発の方に「あの時は説明会で、(SC57を)最高のモデルと言ってたじゃないですか。センターアップマフラーはどこに行っちゃったんですか」などと聞いてみると、「新技術を使いながら、最新のモデルを開発していますが、それはメーカーの使命であって、決して古いモデルが嫌いなわけじゃないです。あのモデルだって、当時のチームが最大限の努力をして完成させたモデルなんですから。それに、いいところだっていっぱいあるじゃないですか」とおっしゃっていました。
最新のモデルに乗ってしまい、「やっぱり最新モデルが欲しいなぁ」と思っていた私ですが、この言葉で少し取り戻したというか、金額が金額だけにまず買えないだろう事実に対する全うな負け惜しみというか、言い訳が立ったような、自分のバイクを見直したといいますか、妙な“収穫”があったのも事実でした。
皆さんに伝えるべく、代表して様々なバイクに乗る機会を与えられる私は、まだまだライディング技術に磨きをかける必要があります。そんな私には、自分の体にABS、トラコン、クイックシフターなどを内蔵させるべく修練が必要でしょう。
そんな私には馬力は必要充分(否、過剰)で、最新のタイヤも履けるホイールを持ち、ABSはおろか、スリッパークラッチもないSC57が最適でしょう。ひとまず、そう思って今回の物欲には対処することといたします。
でも、機会があれば新型CBR1000RRに乗ってみることをお勧めします。知らない二輪車の引き出しが、まだまだ世の中にあることが実感できますよ。
二輪車新聞記者 猪首俊幸