二輪車新聞の5月12日付け号は、3000号。昭和34年の創刊から日本の二輪車業界を見守り続け、58年間継続して発行してきた。

3000号はあくまでも通過点だ。二輪車業界に関わるみなさんの役に立つ信頼できる新聞として、二輪車の素晴らしさを歌いあげる応援団として、バイク乗りの心を失わずに、3001号からの新聞も作り続けたい。

実は、某大学とタッグを組んで、二輪車新聞3000号分のアーカイブ化を進めている。

データ購読のシステムはまだ構築できないので、過去の二輪車新聞すべてを読めるのはしばらくの間、編集長の特権かもしれない。いずれ、4メーカーをはじめとした名物経営者のインタビュー記事や、創成期から300万台へと出荷がヒートアップしていく軌跡を公開できればと思っている。そこには、日本の二輪車産業を盛り上げるヒントが隠されているはずだ。

そんな過去の二輪車新聞を読んでいて、素晴らしい記事を見つけた。58年前とは思えない内容の一部をここに公開する。

「経営は恋愛と同様ロマンチックじゃなければ駄目だよ」と語る本田氏の想いを今、みなさんと分かち合えればと思う。

二輪車新聞編集長 本多正則

社長対談「経営は恋愛と同様ロマンチックに」 
本田技研工業社長 本田宗一郎

画像: 社長対談「経営は恋愛と同様ロマンチックに」 本田技研工業社長 本田宗一郎

ライバルはオートバイ界に非ず 二輪業界の在り方は……

人間が生きていく上には自己保存が一番大切だと思っている。自分が目一杯なのに他人をとやかく批判なんかできるわけはない。だから本田技研が牽引車となって他メーカーを引っ張っていくことなど考えていないし、またそれほど自分を買い被っていない。

私は自己保存のため、他人に迷惑をかけないでいくことが民主主義だと信じている。自分を犠牲にしてまで他人をかばうような昔の愛国者のようなことは私は絶対しない。
これが私の信念だ。

とにかく世間には他人をとやかくいう人が多くて困る。他人を批判するときは自分は100%の人間と見ての批判なのだからたまったものじゃない。私は他人を批判することはしないだけに、他人に批判されることが大嫌いだよ。

現在何十万台もの車を造っている二輪車工業に対しても、世間の人はまだ立派な工業として見てはくれていない。私のところはまだ十年の歴史しかないのだから仕方がないといってしまえばそれまでだが、世間が一人前として認めない原因は創業の月日が浅いことと、もう一つは二輪車工業をきわもの的なものと見ているからだろう。この点二輪車業界は充分反省しなければならないのではないか。

現在二輪車業界は競争競争と、メーカーとメーカー同志が敵視しあっているが、われわれの本当の敵はオートバイ屋じゃないということを深く認識する必要がある。本当の敵はテレビや電気冷蔵庫などの電機メーカーだ。

いくらテレビも欲しい、オートバイもといっても、取る給料が同じなのに重要度のあるものが増えてくれば、我々の給料はそっちに回されてしまうわけだ。だからオートバイ同志で争っているとその分を他に持っていかれてしまうことにもなりかねない。

今言ったように敵は内部にあるのではなく、他にあるというわけだから我々も安閑としてはいられない。だから私は、二輪業界の同業者に対しては迷惑のかかるようなことはしないつもりだ。だが他の業界が私どもに侵入するようなときは、絶対受けて立つ決心でいる。この点業界は深く反省してほしいものだ。

現在の会社の使命というものは多くの資本を集め、その利益を株主に与える。それから多くの人に職を与えてその人たちの生活をエンジョイさせる。とにかく経営というものは恋愛と同様ロマンチックじゃなければ駄目だよ。だから経営にあたっても従業員の心に住んでいるようなものでなくては経営者としての資格はないと思っている。

企業は金があるなしではなく個人の意志を生かしていく、つまり尊重するということが大切ではないだろうか。各人は自分の仕事だけを忠実にやっていく。ただ自分の責任を果たせば良いわけだ。だから工場へ行っても判ると思うが、私が行ってもかしこまるわけじゃなし、お客さんが来たからといって別にどうということもない。

そうかといってサボっている人は一人もなく、ただ自分の仕事だけを忠実にやっているだけだ。経営者としては従業員を幸せにする義務があるんだし、企業全体からみたとき従業員だけじゃなくお客さん、下請けメーカー、デーラーの利益も尊重し、併せて我々のものも尊重する。かくして我々は大衆の力で会社を経営していく。

人を引っ張っていくには自分の気持ちをごまかすようでは絶対駄目だ。おべんちゃらを言って人を引っ張っていっても、そのときは一応済むだろうが自己の心はごまかせない。だから私はうちの連中にもよく言っていることだが、世間には絶対ウソをつかないという信念を持っているんだ。

ところがただ一つ世界中でウソをつくところがある。女房にヒヤヒヤしながらウソをつく。安心しきってウソをつくんだったらスリルがないからね。悪いことだと知りながらウソをつくところにスリルがあるんだ。いうなればこれは安全弁──セーフティ・バルブというわけだよ。
(昭和34年2月26日付二輪車新聞より)

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