矢野経済研究所では、2025年の二輪車の世界需要を、17年の5372万6000台の29・4%増しの7400万台と予測している。世界需要はまだまだ大きく伸びると期待されている。日本メーカーの世界販売台数は、世界需要に対して約51%を占めている。日本車は世界市場の大半を占拠しているのだ。日本の二輪車産業はいまだ健全であるといえる。

しかし最近では新型コロナウイルスに影響されて生産休止のメーカーも出ている。

オートバイの実際の使用面では、満員電車のような人込みとは無縁で、換気にも格段に優れた状況があり、新型コロナウイルスにも打ち勝てる健全な乗り物だ。

振りかえって日本での最高販売台数は、1982年の327万台であるが、16年には40万台の大台を割り、18年にはなんと36・9万台に大きく凋落した。新型コロナウイルスに負けていては30万台も危うくなるかもしれない。

業界では凋落の理由として㈰駐車場規制の強化・駐車違反取り締まりの厳格化①高い高速道路通行料金㈫排出ガス規制強化への対応の必要性、結果的にコストアップと値上げ②二輪車に関する各種通行規制の多さ──を挙げることが多い。若者に対する三ない運動や若者のオートバイ離れにも言及している。

日本社会にオートバイ排除の気運というか、底流があるのではないか。しかし、これらの理由を業界として今後とも唯々諾々と受容していてもよいのだろうか。駐車場の問題は何もオートバイに限ったことではない。高速道路通行料の高さも、何を基準にしてそう判断するのか、その理由も今一つ合理性に欠ける。

日本の軽自動車は価格的に抑えて、多様な商品展開を充実させている。軽自動車はもちろん全天候対応型であり、エアコンもTV付きナビゲーションも取り付けられる。商品的にも実用車からレジャーカーまで用途は多様である。

人的な輸送能力も貨物の積載能力もオートバイよりはるかに大きい。安全性の観点も一般的な見方ではオートバイより優れている。第一に転倒しない。転んだ時の身体に対するプロテクションがある。軽自動車は今や生活必需品になった。

こうした状況が一般化しつつあった中でも、オートバイ業界では業界としての対応策をマーケットで展開してこなかったと言えなくない。無策だった。オートバイ本来の、サービス・レジャー志向のライフスタイルマーケティングは展開されなかった。軽自動車に勝る商品特性も訴求されてこなかった。

公共交通手段は大いに発達したが、それが欠けるところでも軽自動車がその状況をカバーするようになった。実用性も兼ね備えた自転車は、商品の高質化を実現して、大いに普及し二輪車市場を浸食した。

しかしながら、オートバイには公共交通手段とは比較にならない「快適健康安全性」があるではないか。今まさにバイクシーズンでもある。実情は通常ならこの時期に多く開催される各地のモーターサイクルショーなど、オートバイ関連イベントが東京・大阪・名古屋をはじめ各地で中止となった。オートバイ愛好家にとっての一大祭典であり誠に残念ではある。

業界にとって必要な在り方に対して逆行している。ジュネーブモーターショーも開催されず、F1モナコGPすら中止となっている。新型コロナウイルスはこのように、自動車業界・二輪車業界に悪影響を及ぼしている。

一方で、国土交通省では車検期間のみなし延長を6月1日まで行う旨を発表している。こんな時こそ健全なオートバイの楽しみを、知恵を絞ってメーカーが、また各販売店が訴求してほしいところだ。オートバイの世界位はその健全性で、新型コロナウイルスに打ち勝とうではないか。

※2020年4月24日付け号「一字千金」掲載

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)
1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業を担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。

This article is a sponsored article by
''.