ライディングレッスンを長年やっているとバイクショップの噂をちょくちょく耳にする。実際につい先日もこんなことがあった。
同じブランドのバイクに乗っている受講生AさんとBさん。ナンバープレート下のディーラー・エンブレムが一緒であることに気がついてAさんがBさんへ。「えーっ?同じお店で買ったんですね。担当者も同じですか?彼って応対が良くて、整備担当の人も修理後の説明がわかりやすいよね!」と大いに盛り上がっていた。嬉しい話だ。
一方でこんなこともあった。受講生Cさんの嘆き。「あそこで買ったのは2台目。バイクの具合が悪くて店まで必死にバイクを押していったんですよ。たまたま通りかかった社長が、私のことを見ていながらサーッと通り過ぎて、頭にきた!」と話す。
Cさんはその時ヘルメットを被っていないし、目も合ったのに社長はスルー。バイクの不調はCさんが原因ではなく、定期点検もやっている。バイクの持病で店まで押すのは2回目。汗だくだった。
Cさんが言う。「バイクの不調は仕方がないけど、ひとこと社長が、大丈夫?と訊いてくれさえすれば…」という愚痴だった。Cさんは社長と話をしたことが数回あるし、自分の店の客か見ればわかるだろうに」と続けた。
社長の顔はお店の顔
客から見ればショップの代表である社長や店長はヒーローであり、可愛いバイクの面倒を見てくれる主治医だ。面識があればあるほど、より親密さを期待してもおかしくはない。しかし、彼は裏切られたと感じた。
それと真逆の例もある。ベタベタせず距離を置こうとする客。近年ではむしろ普通だがそれは表面だけで、社長や店長やスタッフは、全幅の信頼を寄せられるプロであることに変わりはない。バイクというモノが欲しいだけでなく、人とのつながりをお客様は求めているとも言えないだろうか。
十分な商品知識も優れた整備力も当たり前。もちろん売り上げも大事だけど、それだけではないはず。売り上げを支えてくれるお客様がいてくれてこそのバイクショップ。そのためには、お客様を「観る=See」では不十分。より緻密な「診る・看る=Care」へシフトしたい。
お客様の顔と名前を覚えて心を通わせる。この当たり前がすべてのスタートであり、実は毎日のゴールでもある、と思います。
プロフィール
柏秀樹(かしわ・ひでき)
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員の意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授や情報交換をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。