その最高峰GSX-R1000R ABSが19年ぶりの国内仕様GSX-Rとして登場しました。10月の東京モーターショーではさりげなく市販モデルとして展示されていましたが、前回のショーでは真っ白な繭のオブジェだったように思います。
「走る、曲がる、止まる、の基本機能を突き詰める」はこれまでのGSX-Rで常にコツコツと継続され、まさに磨きこまれてきました。今回のモデルにはモトGP参戦で培われた電子制御技術も搭載。トラクションコントロールや、アップやダウンでも機能するシフター、どのような車体姿勢でも安全なブレーキングを可能とするモーショントラックブレーキシステムなどを搭載しています。
今年国内発売のGSX-R1000R ABSでは、媒体関係者向けに都内での製品説明会だけでなく、千葉県・袖ヶ浦フォレストウェイでのサーキット試乗会も開催されました。スズキ側からは開発陣なども多くいらしていましたが、その中に先導走行なども行ったテストライダーの方もいらしてました。
その中の一人の方は以前の試乗会でもお会いしたのですが、その時の全く飾りっ気のない使用感あるツナギに磨り減ったバンクセンサーの姿がすごく“職人”の感じがして、仕事で使われている道具の凄みとテストライダーという職業が一目で伝わる感じに、何とも言えないものを感じたものでした。その時はツナギを“備品”と語り、バンクセンサーについては「備品なんで、あんまり早く減らすと良くないんですよ」と、のんびりと凄いことを言う人だなと感じ、この人の日常って「走る」ことなんだろうなと感じたものでした。
その方が今回、「コーナーの途中でガーンってリアブレーキ踏んでみて、大丈夫だから」とおっしゃいます。このモデルはモーショントラックブレーキシステムという先進のデバイスを採用しています。最初は「そうですか、そういう技術説明もあったなぁ」ぐらいに思っていたのですが、続けて「テスト、大変だったんだから」とおっしゃるにつれ、「そうか、この人はあらゆる状況をテストしてきたんだ」と気付きました。
安心感を高める電子制御技術の開発段階を想像し、開発途上のテストの危険度や難しさなどが想起され、それが全く自然に危なげなく走るレベルに製品化されていることに、テストライダーの方の存在と、人による開発というものの確実な存在を強力に実感したのでした。こんなに体を張った黒子の方がいるんですよね。たしか、このテストライダーの方、GSX-R1000R ABSをプライベートでも購入されたんですよ。スズキはこういう方が結構おられます。
「すげぇ」とは思うけど、「どうやって作ったんだ」とは出来た製品があって素晴らしい性能を出しているとき、あまり考えないかもしれないですね。特に「誰が」とは。でも、実際にその人に会うと、当たり前だけど「いるんですね、作った人が」と思います。
サーキットなどでは、なかなかにびびりで、思い切りの悪いところがある私ですが、テストライダーさんの苦労を思えば、販売された製品に乗るなんて、全く安心なことなのかもしれません。そう思うと、もっとズバッと寝かしてバンとアクセルを開けていけるような気がするんですけど、次の走行では少しは変わりますかね、私。
自分が乗っているバイクを信じるとかってあるのでしょうけど、開発した人の顔を思い浮かべるのも、走行中にすごく落ち着ける要素かもしれません。
新型GSX-R1000R ABS、また乗りたいです。
二輪車新聞記者 猪首俊幸 (写真:南孝幸)