秒単位で忙しく駆け回る二輪車販売店スタッフを見ていると、売ることがあまりにも忙しい。お客様は意外にそれを察知して、販売店とは「遠い」「薄い」「クール」な付き合いになっていくのかもしれない。

私の知る限りイマドキの販売店スタッフは、言葉使いはちゃんとしているし、二輪車に関する専門的な知識も一定レベル持っている。特に気になることはないのだが、「遠い」が「近い」になり、「薄い」が「厚い」になり、「クール」が「暖かい」を感じるようにできないものか。二輪車販売の調子が良い時にこそ、お客様への接し方は原点に立ち返るべきではないか。

例えばお客様の名前をちゃんと覚えて、タイミングよく嫌味なく多用するというのはまさしく原点。

さらに「理由は〇×△」と無機質な説明ではなく、「〇〇さん、その構造はこんな感じなんですよ。その理由は、こうなっているからです」と、その人のためを思って説明する。また説明の前に名前を呼びかけることで、同じ説明でも親近感が大きく変わる。なぜそうなのかという説明がトッピングされると、お客様満足度はもっと上がる。お客様が聞いて得した感じになっていただくことが大事だと思う。

実際に耳にするのだが、お店とお客様のコミュニケーションについて不満を言うバイクユーザーが多い。

極端に言えば、どれだけ親身になれるかだけ。お客様が「孤独」を感じたら一発でアウト!要は自分のことをどれだけよく理解してくれているか。自分だけをかまってくれ!と言っているのではなく、短時間でもいいので、濃密な一瞬を望んでいるのだ。

販売店からしたら、それは難しいとか、そんな悠長な時間はないと言われるかもしれない。しかし例えば、Aというお客様がよく使う言葉や好みを積極的に拾い上げるようにするのはどうだろう。スタッフが対応した時に出てきた言葉をメモしておけば、別のスタッフが対応しなければならない時にでも話がつながる。ブランド物のブレーキやサスペンションをセットする話が立ち消えたままなら、次回のご来店で次のステージへと誘う。

他にも例えば、サイドスタンドの長さについて、「あと20ミリ短くしたいんだよね」というワガママを叶えてあげることも、お店のあり方としては大きいかもしれない。「メーカーの規定はちゃんとした意味があるから」と額面通りに返答したら、お客様はどう思うか。正しいかもしれないが、それがもしかしたら間違いかもしれない。微細な注文に柔軟に対応できることもショップの個性になる。

バイクはどこで買っても同じ!とは絶対に言わせないために、近くて厚くて暖かい──そんな原点復帰こそが、今こそ重要ではないだろうか。

プロフィール

柏 秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。

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