スズキの二輪車販売会社、スズキ二輪の濱本英信社長が全国の販売店に呼びかけている会議がある。「二世会」と呼ばれるそれは、販売店の息子や社員に向けた会合で、国内の二輪販売会社の中で同社だけが行っている独自のもの。最大の特徴は会議の中で一人ひとりに「社長になる」ことを宣言させていることだ。会を立ち上げたきっかけを濱本社長に聞いた。

二世会は後継者への優しい後押し

2009年7月、それまで日本全国の各ブロックに分かれていた販売会社を全国統一して組織化した会社が現在のスズキ二輪です。それから2年8カ月後、社長に就きました。

私は営業マンとして西日本地区の担当が長く、その地区の販売店さんとは顔なじみの方が多かったので、就任後は中・東日本の販売店さんを定期的に訪問したのですが、その中で関東地区の販売店さんにはやっぱり驚かされました。人口が多いこともそうですが、販売需要がとにかく多いんです。当然、販売店さんも多いのですが、神奈川県や千葉県、埼玉県の大手販売店さんは店舗を10店舗以上持っているところもあり、度肝を抜かれるというか、感心するばかりでした。

(株)スズキ二輪 代表取締役 濱本英信氏

画像: 自らスタートさせた二世会への思いを述べる濱本社長

自らスタートさせた二世会への思いを述べる濱本社長

販売店の社長の平均年齢が上がっていくことに危機感

ただ、その一方で当時から気になったのが全体的に販売店社長の平均年齢が上がっていくことでした。そこで、疑問が出てくるのです。これから先の商売はどうするのだろうと。

実際に店舗を訪問しても、後継者へ代替わりをするとかそんな様子もない。この問題は家族経営の販売店さんだけじゃなく、大手もそうです。あいさつに伺うと、オーナーである社長が頑張っている。その一方で息子さんも頑張っている。もしくは、この人が後継者になるんだろうな、という社員店長が頑張っているわけです。

でも、社長は息子さんや店長に対して継いで欲しいと直接は言っていない。彼らも「私がやる」っていう動きもない。特に息子さんの場合は違う仕事を経験して、家業を手伝うために帰ってきた人も少なくありません。一方、違う販売店さんでは家業と異なる仕事を息子さんに就かせた人もいる。子どもには“苦労をさせたくない”という社長の思いがあるのでしょう。

国内の二輪車市場については後で述べますが、その息子さんもお父さんが二輪車を販売して修理して、稼いだお金で学校も卒業させて、社会人になってるわけですからね。本音は家業を継いで欲しいんですよ。ここまで長いことやってきたわけですから、気持ちの中では継いで欲しいという思いは絶対にありますよ。

そのきっかけ作りをしてあげたいというのが二世会のそもそもの始まりです。この親子間のやりとりは私が社長に就く前も後も、ずっと目の当たりにしており不思議に思っていました。全国の販売店さんでいつも同じようなことがあったんです。

ただ、国内の二輪車市場は販売店さんの社長らが若い頃、猛烈に働いていた時代とは異なって、市場の大きな変化を肌身で感じているんです。だからそういうことがあって、息子さんや店長は自信がないのかなと。また、社長も言わないから、息子さんや店長も自分の方から言いづらいのかな、と思ったんです。

社員が大勢勤めている販売店さんも数多いです。社員とその家族を支えるということを考えると、不安も大きいと思います。スズキ二輪で例えると、社員240人くらいですけど社員とその家族の生活が掛かっていると思うと、社長の重責や不安というのは凄く分かる。なので、代替わりの話しを切り出せないのも凄く分かります。

それなら、国内の二輪車市場の状況をしっかり説明して、不安を払拭してあげれば良いんじゃないかなと思ったんです。手始めに「二世会」という名の下に、息子さんや店長に集まってもらおうと考えました。

そして、会議の後はみんなで近くの居酒屋へ行き懇親会を開くんですよ。そして、グループを形成してもらうんです。グループ内で、とにかく情報交換をさせてあげようと。もちろん私も同席して、スズキ二輪の社員も積極的に入ったりしました。

そこでお酒を乾杯して飲みながら私は言うんです。「いいかみんな、明日酔いが覚めたら親父さんに、店長は社長に、『いついつまでに俺が社長になるから』と、宣言をするんだぞ」と。それが二世会の大きな役割だと思っています。

国内の二輪車市場は、原付一種だけが販売台数が落ち込んでいます。でも、一方で原付二種や軽二輪、小型二輪は安定した市場だと説明をしています。原付一種は最盛期に比べて大きく販売台数が減っていますが、原付二種はピーク時から保有台数で19万台も増えている。軽二輪、小型二輪で言えば174万台も増えている。

だから、十分投資していく価値のある商売だよという話しをしているのです。それとどんな商売でも、どんな企業でもそうですが、計画的な投資にはしっかりとした後継者が必要ですよね。

社長宣言をして、実際に社長になった人もいる

会を続けていく中で実際に社長宣言をした人も多いです。直近では、関西の販売店さんで社長の娘姉妹の長女の方が「私が継ぎます。命をかけてやります」と、宣言をしてね。命は何よりも大事ですから命をかけなくてもいいのですが、その場にいたみんなが刺激を受けるし、何よりそうした決意表明は嬉しいですよね。

実際に社長を継いで商売が大きくなった販売店さんもあります。既定路線だったのか、二世会の影響か不明なところもありますが、始めてから30社の販売店さんが代替わりをしています(22年8月現在)。

関東エリア10店
中部エリア2店
近畿エリア7店
四国エリア7店
中国エリア2店
九州・沖縄エリア2店
合計30店
二世会がスタートしてその後、
後継者が社長に就任した販売店

また、ある地区ではすでに社長になっておられた方に話しを依頼するとお酒の席で“覚悟”というものをみんなに話しをしてくれるんです。会に出てみんなと交流を持って、そうした話しは大いに刺激を受けるんですよね。それと今もそうですが、「二世会の仲間を大勢集めてほしい」と募っています。代替わりや商売で悩んでいる仲間がいるのなら、顔を出してほしい。たくさんの人に集まってほしいという思いがあります。販売店さん同士だと取扱うメーカーが異なっても仲の良い人たちが多いので、そうした人たちが仲間を連れてきていますね。

社長になってもらって今度は二世会から「若手経営者会議」という会合にステップアップしてもらう。これは地区別ではなく、もっと大きなエリア、県別に集まってもらいたいです。そうでなければ、関東ブロックで集まってもらうとかね。実際に栃木県や群馬県、福岡県でそうした流れが出てきました。この流れが続いていけば良いと思っています。

そして、ある程度経験を積んだらその会を卒業してもらうと良い。そういう流れを作っていければさらに良いと思います。ただ、会では毎回、強く言ってきたことがあります。それは私や先代の社長たちが20~30年で経験してきたことが、これからは5~10年と短い期間で経験するようになる。それほど世の中の動きが早くなってきている。だから、地に足をつけて目をパッと見開いて、しっかり見てください。そして、その流れに乗ってくださいと。そのぐらい、目まぐるしく変化しているんです。(続く)

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