実際にスクール内で行っている整備講習の一例として、ドライブチェーンのメンテナンスを取りあげてみます。チェーンが汚れているバイクを教材にして、後輪を浮かせて空転。次に、クリーナーで洗浄後にチェーングリスをスプレーして後輪を空転させます。
当然、明らかに回り方が違います。時間が許す時は、スクール参加者に洗浄前と洗浄後の走りを比較してもらいます。走りそのものはもちろん、チェーンが発する音も異なることを感じてもらいます。能書きよりも実感していただくのが一番です。
一般的にはチェーン調整は手際よくできないものです。経験不足だから当たり前です。ですから、ゆっくりわかりやすく説明します。受講生によっては清掃より先にチェーンの遊びを調整した例もありますが、ちゃんと説明すると「なるほど」と納得してもらえます。その納得が、整備をやる気にさせるのです。
大事なことは、率直に整備の必要性を感じ取ってもらうことです。必要性を感じさせられないなら、それはスクール運営側やバイクショップの敗北か。もちろんそれは大袈裟ですが「整備は面白い」と思わせるパワーがバイクショップにも欲しいのです。
一方で整備はバイクショップに任せる、というユーザーがいます。それは正しいし、そうではないとも言えます。
バイクショップにしてみれば、全幅の信頼を寄せて整備を100%任せてもらうのが理想。しかし現実は整備予算が潤沢な人と、それなりに考えて整備依頼する人、できるだけ自分でやろうとする人、そして予算の有無に関係なく整備をまったくやらない放置プレーの人がいます。
人の数だけバイクに対する思いは異なるのですから、バイクショップとしてはその対応は画一的にできませんし、しかも技術的な要求度は非常に個人差があります。
車両整備の技術は重要
ひとつの提案ですが、工具の使い方、持ち方と整備中の怪我予防法を含めてお客さんに楽しく伝えるのはどうでしょう。
整備のノウハウを教えることはショップの損失では、と考える方もいると思います。でも、ツーリング先でトラブル防止やサバイバル術を知るからこそ、不安が減ってますますバイクにハマるかもしれません。
そこをうまくリードできるか否か。ショップで行う整備教室的なものがあなたのショップの不利益や無駄になるか、逆にショップの活性化につなげられるか。私は「安全のための装備は必要。整備技術は重要。業界全体の価値向上につながる」と考えています。
各ショップが独自の手法で、整備に関する価値増殖を狙うべきだと思っていますが、いかがでしょうか。
プロフィール
柏秀樹
柏 秀樹(かしわ・ひでき)
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。